TBS
2004年1月2日放映
「向田邦子の恋文」
(出演/山口智子、石田ゆり子、樹木希林、岸本加世子、
森繁久弥、岸部一徳、田畑智子他)
主題歌:一青窈の「夢なかば」
放映前の期待度:★★★★★
当時、個人的に大変お楽しみにしてたドラマっ。だってあの山口智子嬢が、あの向田邦子様をお演りになるのだもの。もう皆さばご存知とは思いますが、
向田氏が生前残した手紙をもとに、妹の和子さんが書いた同タイトルの本をドラマ化したもの。以前、この本を読んだ時、向田氏がこんな秘めた恋(不倫と言っ
てしまうのには、この場合違和感がある)をしていたのに驚き、いつかドラマになるといいけど内容的に難しいかな・・と思ってもいたので、それが実現したこ
とがまずうれしゅうございます。
また、普段一見ガサツだけど実はデリケート、みたいなお役が多かった山口嬢がどんなふうにこの役柄を演じられるのかと思うと、期待はどんどん膨張し
てまいります。番宣でテレビ出演してたのを拝見した時は、やや印象が変わった感じだったけど、それがどんな変化なのかも是非とくと拝見しとうございます。
放映時の満足度:★★★★+半
静けさの中に激しさのある、深い余韻の残るドラマでございました。。
33歳の女性のある数カ月間の日々が淡々と描かれ、取り立てて大きな出来事が起こる訳ではないのだけど(最後の彼の自殺を除いては)、人間が生きて行くと
いうのは、こういうことなのかしらん・・?と、ふと解ったような気にもなり、でも今ではこんな恋は難しいだろうなとも思ってもみたり。。
邦子の秘密の恋人・安原は、脳卒中を患い右半身が不自由で、仕事もないから収入もなく、見た目も特別ハンサムでもないし、頭には白髪が目立つ初老の
男。お金も仕事も若さもなく、おまけに別居中の妻子もいて、正直「いったいどこに惹かれたのだろう」と不思議に思う(元はカメラマンだったらしいから、邦
子は彼の良い時期も知ってるのかもしれないけど、劇中からはそんなことも感じられない)。
でも、邦子は放送作家として多忙な毎日を送りながら、毎晩のように食材を持って彼のもとに通い、食事を作り甲斐甲斐しく世話をする。徹夜で山のよう
な原稿を書いて稼いでは、彼に当時としては多分高価だったであろう電気毛布などを買い、時には少しまとまったお金を渡してもいる。
ひどい言い方をすれば、安原はヒモのようでもある。・・でも、お金やモノを与えるのは一方的に邦子であっても、彼女の方もまたそれと同じくらいの
「何か」を受け取ってもいた。彼と一緒に過ごす数時間が、その後の徹夜仕事のエネルギーになり、新たな仕事への意欲にも、彼女の生き甲斐にもなっていた。
「この人がいなければ一行も書けない」という言葉は、邦子の率直な気持だったのだろう。
そして、安原の方もまた、そんな邦子が生きる支えだったのに、結局彼は自分で命を絶ってしまう。それは安原の母が言うように、忙しくなった邦子が離
れていってしまう寂しさもあったと思うけれど、それ以外にももっと複雑なものがあった気がする。彼女への嫉妬や、先行きのない自分への焦燥感。暗く閉じた
自分の部屋に彼女が持ち込む生き生きとした空気は救いでもあると同時に、自分の惨めさを思い知らされる時でもあったのではないか、と。遺書のようなものは
なかったようだけど、彼が遺した日記にそんな気配はなかったのか、そんなところもできれば少し描いて欲しかった。
その点が、あたくし的には少し残念だったけど、でも全般的に奥深いドラマでございました。何かをしてもらう恋ではなく、自分がしてあげたくなる、そ
うしないではいられなくなる恋。与えられることに慣れ切っている、今の女子には理解しがたいかもしれないけど(ギャバクラ嬢たちがホストにつぎ込むのと
は、ちょっと違う)、恋の切なさや残酷さをじんわり味合わせていただきました。
それに、堅物で横柄な邦子の父の浮気(浮気というよりは、もっと重いものだったけど)、それに気づきつつも淡々と従順でいた母が見せたドキっとする
ような一面。その浮気相手の秀子が、いかにも場末で上品とは言えないバーの女だけど、彼女にも彼女なりの哀しい過去や、今の苦しい思いがあることもうまく
描かれていて、切なくなりました(右目の傷か火傷痕を隠すために、真っ青なアイシャドーをしているのが痛々しく、女。。)。
また、それぞれの状況(父も娘も道ならぬ恋をしてる)がわかっても、直接的にお互いに相手の領域に踏み込まない邦子と父の関係も「大人の家族」という雰囲気で、印象的でした。
邦子を演じた山口智子さまは、民放ドラマは7年半ぶりということで、やや風貌に月日は感じたけれど(でも足首はキリリと締まってたわ)、変に若作り
していないのも好ましゅうございました。リアルなラブシーンはなかったけど、とても色っぽく、ふとした表情にいろんな感情が読み取れて、ブランクを感じさ
せないのはさすがでした。
急な連絡の時の電報や、「好き」もハートマークもない恋文、コンビニなどない時代の食べることの手間ひま、家族総出でするお正月準備・・などなど、不便そうで慎ましやかだけど、どこかほっとするような日常の風景も好きでした。
やたら賑やかしいお正月番組の中で、静かに真珠のように光る趣きのある世界。
良いものを見せていただきましたです。。